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春風亭朝枝(しゅんぷうていちょうし)
2015年02月16日 春風亭一朝に入門
2016年04月01日 前座となる 前座名「朝七」
2020年02月11日 二ツ目昇進 「朝枝」と改名
【受賞歴】
2023年03月 第22回さがみはら若手落語家選手権 優勝
2023年10月 浅草演芸ホール あしたこそ 優勝
前座の頃から、噺が上手く、スーパー前座として名が響いていた。
そんな彼の、落語家になるまでの経歴や、入門に至った経緯、師匠である一朝師匠に惹かれたところ、二ツ目になって3年目を迎えた今の考えを伺った。
そして、意外な趣味である盆栽についてのお話も。
栃木県真岡市のご出身ですが、真岡市は日本一のいちごのまちですよね?
いちごは美味しいので好きですね!
親戚が農家をやっていたので、子供の頃はなにかといただいていました。
大阪でパフェを食べられたり、佐賀でブラックモンブラン( 佐賀発の名物アイス )を食べられたりで、もしかして甘い物がお好きなんですか?
甘い物はすごい好きなんですよ!
10代ぐらいの時は、そんなに甘い物に興味なかった時期もあったんですけど、20歳を超えてから急に、もうそれを取り戻すかのように好きになりました(笑)。
落語家になるまでは何をされていましたか?
大きく分けると、バンドマンと板前ですね。
耳にピアス跡がたくさんあるので、パンクバンドをされていたんですか?
そうですね(笑)。
ベースを始めたのが高校生位で、音楽は20代半ばまでやってました。
バンドを始めた頃はパンクだったんですけど、それがだんだんロックにいったりジャズにいったりと、色んなジャンルに移り変わっていった感じです。
では、板前はいつからですか?
20代ですね。
飲食店でアルバイトをやりながらバンドをやってて、そこからの流れで居酒屋で働き、少しずつ厨房に入れてもらいながら。
それで、調理師免許も取ってみようかみたいになった時期が20代半ばですね。
寅の子会(春風亭朝枝×与いちの落語会)のインタビュー対談で拝見しましたが、ご実家が料理屋さんなんですよね?
そうですね。
法事や、宴会につかってもらうような座敷があるような料理屋です。
長男なので、最終的にはそのお店を継ぐようにとずっと言われていたんですけど、あんまり子供の頃はそこまで乗り気ではなくて。
20代半ばの頃だとそろそろ本気で後継ぎの話をされたのではないですか?
そうですね。
なので、調理師免許を取ってから実家に戻ってお店を手伝っていました。
落語に初めて触れたのはいつですか?
正にそのタイミングです。
実家の仕事の休憩中にラジオを聴いてたんですよ。
そしたら落語が流れてきて、「あー、面白いなー」と思いました。
ラジオで初めて聴いたこれが「落語」なんだっていうのを知ってから、落語について興味を持ちました。
それで地元の図書館に行って、落語のCDを借りたり、本を借りたりしてました。
そこから実際に生で落語を聴きに行こうってなったのはどのくらい経ってからですか?
1年は経ってたと思います。
初めては上野の鈴本演芸場に行きましたね。
実際、初めて生で落語を聴いた時はどう思いましたか?
こんなに喋りだけで、人の感情を揺さぶられるような。
もう、それにすごく衝撃を受けて。
涙が出るほど笑わせてもらったり、楽しくなったり、人物に感情移入しちゃってボロボロ泣かされるようなこともあれば、なんかこう登場人物と一緒になって怒ったり、なんということもあって。
想像させられたってことですよね?
結果的に自分が勝手に想像してそうなってたんだと思うんですけど、なんかそれにすごく衝撃を受けて。
落語って不思議だなと思ったのが、色んなところで共感したりするじゃないですか。
あれっ、これ昔に似たような経験したことあるみたいな。
そういうのが噺につながっていって、すごく自分の身近な噺に聴こえたりして。
それから頻繁に寄席に通われたわけですか?
お店の休みが週1回だったんですけど、地元からだと1時間40分とかそのぐらいかけて通ってましたね。
落語を自分もやりたいとなったのはいつですか?
落語を生で聴いたことがきっかけになって、寄席だったり業界の仕組みだったりを調べました。
出囃子のCDとかも聴いて、これが出囃子でかかるんだみたいな。
他にも本で調べて、一番太鼓だったり、お囃子だったり、寄席の仕組みみたいなことが分かってきて。
前座さんのする噺が前座噺とか、二ツ目になって羽織が着れるようになることとか、そういう業界の色々な事が分かって来たら、もう自分もやりたくてしょうがない!
みたいになりました。
バンドを始めた頃とは違い、年齢も上がっている分、落語家になるというのは、その重みは違いますよね?
10代の時にバンドを始めた時と気持ちは同じなんですけど、なんというか年齢を重ねている分、景色が違ったんですね。
もう少し先を見ながら決めたような。
自分の年齢(当時27歳ぐらい)で今から落語を始めるというのを考えた時に、時間の幅として、この年齢で二ツ目になって、大体これぐらいで真打ちかなみたいなのを全部一回考えて、その上でやるかやらないかっていうのを、今の家業である仕事も辞めてとなった時に、それでもやりたい!
生涯の仕事にしたいと思いました。
寄席でたくさんの師匠方を観られたと思いますが、( 春風亭 )一朝師匠に入門しようと思った理由は?
落語に惹かれた理由の一つに、噺に出てくる登場人物たちへの寛容さがあります。
粗忽者の八っつぁんも、ぼんやりした与太郎も、笑いこそすれ、邪険にすることはなくて、周りも彼らを受け入れて、それぞれの身の丈で楽しく生きてます。
とりわけ、うちの師匠の高座は優しくて、粋でいて、愛嬌があって、勢いよく啖呵をきるところでも、不思議と心地よく笑えたりして。うちの師匠が寄席に出てくると、一旦場内がパッと明るい雰囲気になるようなのもあって。
「"いっちょう"懸命」って言ったら、場内がワーっ!てなるじゃないですか。
それにもすごく心が惹かれて!
場が和むってことですね。
どんな噺でもうちの師匠はくすぐり( 本筋とは関係のないギャグのこと )でお客さんがよく笑ったり、同じ噺を聴いても、必ず同じところでお客さんの反応があったりで、話芸というか、しっかりその落語をやる上での基礎というか、職人のもっている技術みたいなのもそこに感じて。
全てに惹かれたってことですよね。
そうですね。
入門後、高座を下りてからの師匠の人柄にも触れて、とにかく優しくて、師匠のいるところはいつも賑やかで楽しい空気になって、ますます惚れ込んでいます。
二ツ目に昇進(2020年2月)して2年が経ち、現在3年目に入りましたね。
経験を踏んだり、歳を重ねることで考え方は変わっていくと思いますが、現時点ではどう心掛けて落語をされていますか?
今は、なるべく自分を出さないように噺をするというのを自分の中で決めてます。
お客さんの想像に任せるみたいな感じですか?
なんというか、あまり自分でくすぐりを入れたりとかではなく、噺がそのまま素直に伝わるように。
噺の登場人物にあまり自分が乗っかるような感じではなく、登場人物がそのまま喋ったり動いたりするような。
その為に、今はなるべく自分の要素を消していくようにしています。
「岸柳島、「紫檀楼古木」などあまり高座でかかる機会が少ない噺も覚えてこられてますが、覚えたいと思う噺の基準はどう決められてますか?
自分がやりたい、好きだなって噺が基準で、噺を教えていただいて、自由にやらせていただいています。
だから持っている噺に段々偏りがでてきて。
なので、よく知られているような有名な噺をまだ持ってなかったりします、「時そば」とか。
ということは、まだそばをすする真似ははまだできないってことですか?
そうですね。しかしできないのは悔しいので、自己流ですする稽古をやってみたりしますが、なかなか難しいです。学校寄席などに伺って、おまんじゅうを食べる様子や、お茶を飲むところなどを子供たちにみてもらって、何の所作か当ててもらう、みたいな遊びをするんですが、私がそばをやると大概、子供たちからは「うどん」と言われます(笑)。なので、いつか「そば」と言っていただけるように、精進したいと思います。
所作がとても丁寧に感じますが、心掛けてされているのでしょうか?
出囃子が鳴って高座までの歩き方などもゆっくりで。
普段の稽古通りにやろうと思っていて、いつも散歩をしながら稽古するので、歩くのがゆっくりなんだと思います。
もしくは単純に年のせいかもしれません。
これからの目標は?
もっと噺をたくさん覚えて、実力をもっと付けたいです。
二ツ目の時期はとにかく場数を踏んで、噺を覚えてどんどん芸を吸収して、いろいろなことに挑戦したいと思っています。
一朝師匠は芝居がお好きですが、朝枝さんも芝居がお好きなんですよね?
芝居は好きですね。
うちの師匠と師匠のおかみさんの影響ですね。
お二人で芝居の話をよくされていて、お会いした時に横でお話を聞いたりして好きになりました。歌舞伎の言葉遣いとかも「いいなぁー」って思いますね。
女形とかもすごく参考になります。うちの師匠からも、落語の噺を覚えるのにも歌舞伎の舞台を想定してやるように教えていただきました。
だから、誰が上手にいて下手にいてっていうのを全部そこに当てはめてやってます。
場面を自分で想像しながらですか?
そうですね。
芝居に当てはめて、例えば隠居さんが上手にいて、下手の方にある花道から八っつぁんが来てっていうのでそちらを向く。
すると今度は八っつぁんが上手の方にいる隠居さんに向かって言葉を言うんだよっていう風に。
先ほど散歩のお話が出ましたが、趣味は散歩以外にも盆栽がお好きなんですよね?
散歩のコースに(埼玉)大宮の盆栽村というのがありまして、そこはたくさんの盆栽があって、ご家庭のお庭が開放されていて、入って見学させてもらえるところもあり、それを見て、「あぁいいなぁー」って。
さらに、大宮盆栽村の奥に、大宮盆栽美術館がありまして、そこで初めて盆栽の見方を知りました。
どう教わるんですか?
建物の中に案内があって、基本的なところから、根張りや立ち上がりの見どころだったり、枯れた枝がジンといって、幹が枯れたのはシャリと呼んだりなど、また盆栽は下からこう覗くのがいいんだよとか、丁寧に説明がされていて色々勉強させていただきました。
他にも、盆栽の種類だったり解説も。
この時期はこういう盆栽がいいよとか、季節によって入れ替えがあるんですよとか。
よく行かれるんですか?
そうですね。
季節に合わせて、見頃になったら行くみたいな(笑)。
自分で買われて育てたりはされないんですか?
興味があるんですが、まだ育てる技術がないですね。
手入れとか、水やりとか、剪定の道具とかもまるでそこに行き届いてないので、自分に盆栽を持てるだけの技術と知識が身に付いた時にですね(笑)。
盆栽から落語につながることはありますか?
知らなかったことが増えていくっていうのは噺につながっていくというのはありますね。
盆栽の歴史とかも全く知らなかったんですけど、それこそ植木屋さんではないですが、職人の様とか、知る前と後では、噺のなかで見える部分も変わってくると思います。盆栽に限らず、これからも色々なものに興味を持っていきたいと思います。